伊藤メンタルクリニック

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周囲の対処法

 前回、周囲の人間が、いかに気づくか、というお話をしました。本人が気づいていなくても、周囲が本人の不調に気づくことはよくあります。今回は、本人の不調に気づいたとき、どのように働きかければよいかということについて、お話したいと思います。

 まず、調子が悪いと気づいた人がいたら、そのときは「大丈夫?」という一言をかけてあげてください。言われた人は、もし大丈夫であっても気遣いをしてもらったことに対して悪くは思わないでしょう。また、調子が悪いときというのは、なかなか周りに言い出せないものなので、そのように声かけしてもらうことで相談しやすくなります。

 もし、実際調子が悪い場合、「実は最近どうも調子が悪くて」とはっきり言うケースもあれば、はっきりとは言わないケースもあると思います。もし、本人が調子が悪いことを否定しないときは、様子をみましょう。本当は調子が悪いが、相談しにくい何らかの事情があるのかもしれません。しばらく経過をみて、調子が悪そうならば再度声かけをするのがよいでしょう。こちらが焦ってはいけません。

 もし、本人が「実は・・・」と相談を持ちかけられたら。そのとき心がけたいのは、自分と話すことで状態を悪くさせないことです。

いえ、実際そういうことはよくあることなんですね。皆さんも実生活上、「この人と話すと楽だ」「あの人と話すといつも疲れる」といった経験はあると思います。相談の乗り方については、実はいくつかポイントがあり、そのポイントさえ押さえれば、どんな病気や状態であったとしても、悪くさせることはありません。

 そのポイントは、以下のようなものです。

 まず、傾聴ですが、皆さんがもし、話をするのが好きだとしても、このときばかりはぐっとがまんして、聞き役に徹してください。聞くとは、耳だけではありません。目を見たり、うなずいたり、あいづちを打ったり、など、体全体で聞きます。

 いろいろな話があり得ます。仕事のことであったり、家庭のことであったり、経済的なことであったり。しかし、どんな話であっても、客観的な物事と感情が混じっていることでしょう。

 たとえば、

 これは、客観的な物事について伝えています。

 これは、感情だけですね。

 前半が客観的な物事、後半が感情です。

 傾聴においては、感情の部分に重点を置くのがよいでしょう。通常、人に相談するときには、客観的な物事を伝えることよりも、自分の感情を分かってもらいたくて相談するものです。客観的な物事というのは、あくまで付録にすぎません。

 3番目のケースでいえば、父親が言った内容よりも、自分が腹が立った、くやしいということを伝えたいということです。

 ですからこのとき、「いや、ずっと就職につかず家にいることはお父さんがということは正しいよ」とか、「こういう風に考えた方がいいんじゃない?」と、客観的な物事に焦点を当てて話をすると、話していた本人は、自分の話したいことが伝わっていないと感じてしまいます。

 傾聴において、感情に重点を当てることが最も大切です。仮に、客観的な物事について話をするべきことがあったとしても、それは別のタイミングであり、まずは感情を受け止めます。感情を受け止めるとは、つまり、「ああ、この人はそんなに腹が立ったんだな」と、自分もその気持ちを共有することです。このことを共感といいます。

 共感しながら傾聴する、これが、相談を受ける上で最も重要です。共感においては、その人の気持ちになって「それは腹がたったろうね」とか、「それは無理もないわ」等、こちらに気持ちが伝わっていることを返してあげることもまた大切です。

 共感して話をする、その前提には、自分の人間性も関わってきます。共感するとは、相手の気持ちを大切にするということですから、相手の人間性を大切にし、相手の考え方を尊重しようという真摯で誠実な気持ちが必要になります。

 人それぞれ、考え方や価値観は違いますが、自分と違う考えや価値観を持っていたとしても、尊重するという気持ちが大切になります。もし、相手を見下したり、イヤイヤ話したりしたとしても、自分の態度のどこかからにじみ出てしまうものです。ですから、共感するとは、単なるスキルではなく、根本的には相手の気持ちや立場を尊重しようという姿勢があってはじめて出来るものです。

 相手の気持ちや考え方を重んじるには、こちらにもある程度心の余裕が必要となるでしょう。そういう意味で、相談に乗る人自身、心にゆとりを持つことが必要です。

 共感において最も注意が必要なのは、共感のあまり自分も相手の感情に引き摺られてしまうことです。相手が沈んでいて、自分も一緒に沈んでしまっていては、良い相談は出来ません。

 共感しつつ、ある部分では引き摺られないように距離感も持つ、ということが必要なんですね。この距離感こそ、難しいところかもしれません。近すぎてもいけない、ということです。

 また、相談内容によっては、自分の手には負えないということも出てきます。さきほどの心の距離感も、ケースによっては難しい場合もありますし、悩んでいる問題自体が大きいこともあるでしょう。生物学的な問題が潜んでいる場合、医療的な介入をしないと解決していきません。自分の手に負えないと思った時には、他の人や専門家に委ねるということが必要です。

 

 今回、長くなってしまったので、周囲の対処についての続きは、次回説明したいと思います。

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