近年、職場や教育現場、家庭においてストレスが増えつつあり、心の病がしばしば話題とされます。心の病は、ゆっくり症状が進み、痛みも感じないために、身体の病気よりも気づきにくく、放置されがちです。しかし、段々と日常生活や仕事に支障をきたすようになり、休職や休学につながることもあります。
自分の心の病に気づきにくく、判断や対処が遅れがちになるのは、いくつかの理由が考えられます。
・自分の精神状態を客観的に判断することの難しさ
自分を知り、客観視することは、難しいことです。まして、精神状態が悪いときは判断力が低下し、自分のことを客観的に見る余裕はなかなか持てません。
・心の病の多様性
心の病の要因は様々です。生物学的要因(つまり、脳の何らかの要因)により不調を呈することもあれば、環境的要因や性格要因から不調をきたすこともあります。そしてそれらの要因はしばしば複合的に発生します。また、心の病には、沢山の種類があり、症状も様々です。また、身体疾患の一部として精神症状が現れることもあります。
・見通しが立ちにくいこと
いつまで続くか分からないとき、苦痛は強くなります。心の病気は判断が難しく、「このままずっと治らないのではないか」「自分は今後どうなっていくのだろう」という不安がつきまとうようになります。
このように、心の病は自分では判断がつきにくい傾向があるため、症状がなかなか改善しない時、生活への支障が現れたときは、受診をお勧めいたします。
私は、2008年に三重県津市で伊藤メンタルクリニックを開院し、3900名余りの患者様の診療にあたりました。私が大切にしていたことは、
・病名、治療方針をお伝えし、今後の見通しについて出来る限り説明するように努めること。
・治療を諦めないこと。難しい疾患であっても、世界の医師の誰かが同じ問題に直面し、打開した形跡が論文に残されていることもあります。しかしながら、変えられない環境、まだ治療法が確立されていない疾患等、現実的には厳しい状況もあり、時にそのことを受容することが必要なこともあります。そのときも、辛さや痛みを少しでも和らげることは出来ないか、努力すること。
・他科および他分野との連携。精神症状は、身体疾患の一部としても現れることが多く、他科の先生方と連携することはとても重要です。また、精神科とは、社会的な側面が強いため、精神科領域に留まらず、会社、行政、教育、法曹、介護など、他分野の方々とも柔軟に連携し、治療にあたること
・地域における自院の位置づけを確立すること。一医療機関にできることには、限界があります。他院、他科の先生方、医療に関わる全ての職員の方々を尊敬し、地域医療の一機能として、自院に出来ることを見つけていくこと
でした。縁があって神戸に参りましたが、自院に出来ることを精一杯、頑張っていきたきと考えております。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
【 医学博士 伊藤 雅之 】
【 職 歴 】