前回まで、心の健康をみるうえでの着眼点について見てきました。そのなかに出てきた重要なキーワードである「自殺」について、今回は考えてみたいと思います。
近年、硫化水素や練炭による自殺のニュースを時に耳にします。自殺のそういったニュースが流れると、自殺の方法について興味本位で調べたり話題になったりしますが、方法が具体的にわかると実際にやってみる人が出てきてしまいます。テレビなどのメディアでは、ある程度の倫理的な規範に基づいて報じられますが、インターネットではそういった規制はなく、逆に面白半分で方法を載せたり、簡単に出来るなどといった形で煽る人も出てくるため、インターネットの問題は深刻だと思います。感覚的には、自殺者は増えてきているように感じますが、実際はどうでしょうか。
上のグラフは、全国における近年の自殺者の推移を示すものです(警視庁)。このグラフを見ますと、平成22年以降、自殺者は減少傾向にありましたが、令和元年より増加傾向にあり、背景に新型コロナ感染症の影響も考えられています。注目すべきこととして、自殺既遂者の90%が精神障害を持ち、その60%が抑うつ状態であったと推定されていることです (WHOの自殺予防マニュアルより)
自殺する人の心理状態は、健康な時の心理状態とはかけ離れています。実際、自殺を図ったのちに治療を受け、落ち着いた方の大半は、「あのときはどうして死のうと思ったんだろう」と首をかしげます。死のうと思っているときは、八方塞がりで、もう死ぬしか他に方法はないとどうしても思ってしまいます。
しかし、死のうと考えているときは、心も病的な状態にありますから、無理に解決策を求めようとせず、まずは休むのが一番です。すぐに解決しなさそうな問題もとりあえず先延ばしし、あるいは周りの人にまかせてしまいます。そんなことをしたら周りに悪い、と思ってしまいがちですが、周りの人にとって一番困るのは、自分が命を絶ってしまうことです。
周りに迷惑をかけるのが悪いと思うならば、治ってからまた恩返しすればいいことです。それくらいの気持ちで、当面の問題は放り出してしまうのがいいです。
それから、先が見えずずっと苦しいくらいならば死んでしまったほうがまし、と思うものですが、苦しみは医師などの専門家に相談することで必ず抜けることが出来るものです。
自殺を考えている人は、いわば屋根の上のてっぺんをよろめきながら歩いているような状態です。死んだほうが楽なんじゃないか、でも死ぬのも怖いし、と、生きるべきか死ぬべきかというのを何回も考えます。そういったひょろひょろとしている人が、自殺の安易な方法を見かけると、なんとなくその方法を模擬したくなる場合もあります。
ですから、そういった死と生の間を自分がさまよっている場合、あるいはそういう人が身近にいる場合は、逆に自殺を止めてくれる人と積極的に話すのが良いです。死の方向にいっていた意識をグイっと生の方向に引き戻してくれる、そういった人となるべく話すようにするのがいいです。また、それくらいつらい状態は、薬を服用することでそれだけでもかなり改善するものなので、心療内科ないし精神科の医療機関への受診がもっともよいと考えられます。
自殺に対しては、早期発見・早期治療が最も重要であるというお話をいたしました。次回は、周りの人が自殺のサインをどう見抜き、気づくかというお話をしたいと思います。