前回までは、本人の自覚の話が中心でした。しかし、心の病気は、本人があまり自覚しておらず、周囲の人間が何かしら異変に気づいている、というケースもよくあります。
周囲の人といっても、家族、友達、会社の同僚、上司などいろいろな関係がありますが、いずれにせよ難しいのは、単なる甘えやさぼりなのか、本当に病気なのかという見極めでしょう。ここで、「甘えているだけだ」「たるんでいるだけだ」という決め付けは、危険です。なぜならば、割合心の健康を損ねている人というのが多いからです。
以下のグラフは、厚生労働省の労働安全衛生調査で、「仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合」を示したものです。ご覧のように、全体的に6割近くの労働者が、ストレスを感じていることがわかります
仕事にストレスがある労働者の割合
厚生労働省 「令和元年版過労死等防止対策白書」より
病気かどうかの見分け、これについては、簡単な見極め方はメンタルの病気の見分け方でお話しました。もう少し具体的には、メンタルの病気のチェックリストで説明しましたが、これはあくまで本人がチェックするものです。心の病気とは、自覚的なものですから、本人が「落ち込んでいる」といえば、周りでは評価しようがないのでしょうか。
私は、これも研修医時代でしたが、指導医の教授から「本人が述べることと周囲の人の観察が食い違っているとき、観察を優先しなさい」と教わりました。これは別に、本人の言うことを軽んじたり信じない、という意味ではなく、精神医学においては観察というのはそれほど大切だという意味です。
本人が痛みや苦しみを述べているときは、しっかり耳を傾けなくてはいけないのは一番大切であることは言うまでもありません。しかし、評価にあたっては、本人の自覚と同じくらい、観察が必要ということです。
実際、身だしなみや頭髪の手入れ、化粧、声の大きさ、身振り手振りといったなど、人が自然に振舞ったときに表面に表れるものを観察します。(この表面に現れるものは、精神内容が外部に現れているものであり、専門用語で表出といいます。大学で指導医をしていた頃、研修医にはよくこんな風に教えたものでした)。
観察項目は多岐にわたりますが、実際職場ならば
といったことが、観察項目としてあげられるでしょうか。5番目の「会話が多すぎる」や、6番目の「元気すぎる」、といった部分は、本人が本当の自分の姿を隠して無理をして元気に見せている可能性のことをいっております。まず、「何か前と比べて違ってきたな」と、気づくことが出発点なのですが、違ってきたと思ったら上記のように具体的な項目を見ていくといいでしょう。
最初にも述べましたが、「甘えなのではないか」「たるんでいる」という風に決め付けず、まずは観察が必要です。観察して、やはり調子がおかしいということが判明したときに周囲の人として大切なこと、それはまた次回にお話したいと思います。それは一言で言えば、「大丈夫?」というちょっとした優しい声かけです。
病的に調子を崩している人を安易に責めたり叱ったりすると、余計調子を崩してしまいます。また、自分がそもそもストレスの要因になっていることすらあります。叱る前に、まずは観察、そして声かけですね。そのためには、周囲の人も自分の気持ちにも余裕が必要になるので、その点も気をつけてください。